漢方はオーダーメイド医療

近年は、西洋医学でも、一人ひとりに応じた「個の医療」「オーダーメイド医療」といわれるようになりましたが、漢方治療の特徴はまさにそこにあります。
患者さん一人ひとりの体質や病気に対する反応の違いに着目して治療の方針を組み替えるというのは、最新の遺伝子診断と目指すところは同じです。

西洋医学でいう「第一選択薬」は統計的に見て、効く確率が最も高い薬ですが、漢方では、患者さんの体質や症状に合わせて一人ひとりの患者さんに合った生薬を組み合わせて漢方薬を選ぶことを基本としています。この個人差を重視する考え方が、現在、漢方が再評価されている理由の一つでしょう。

不定愁訴の悩みを改善

不定愁訴と呼ばれる、原因のはっきりしないさまざまな症状は、女性に多い悩みですが、女性は男性以上にホルモン分泌の変動があり、月経周期に伴う波もあり、妊娠・出産、更年期という大きな変動時期もあります。
ホルモン分泌の乱れは自律神経の働きにも影響し、不定愁訴が生じやすくなり、検査をしても原因を特定しにくく、西洋医学で対応しにくいことも多いようです。

日本では古くから、月経時、産後、更年期などにみられる頭痛、のぼせ、めまい、発汗、熱感、冷間などの症状を「血の道症」と呼んで、漢方治療が行われてきました。
現在も、更年期障害などでは、多くの産婦人科医が漢方薬を治療に取り入れており、特に心身両面の症状が重くなって現れているような患者さんには有用といわれています。
一つの薬で様々な症状に効果がある漢方薬は、女性特有の不定愁訴の治療には特に有用だそうです。

生理前の女性をサポートするレディデイズサプリメント【Lara Republic】

高齢者に優しい漢方治療

医学の進歩で長生きができるようになった一方で、完治の難しい慢性疾患を持つ人が増えており、高齢化に伴うさまざまな不調で悩む人も多く、使う薬も多くなりがちですが、一方で、肝臓や腎臓の衰えと共に、薬を分解して排泄する機能も低下するため、飲んだ薬が体にたまって副作用が出やすくなります。

しかも、副作用による問題は高齢になるほど大きくなりがちで、「ふらつき」など、若い人なら問題にならない程度でも、運動機能が低下し、骨ももろくなっている高齢者では、転倒して骨折につながることも少なくないようで、薬の副作用のため新たな薬が使いにくくなるなど、対応が難しいことも多くあります。そういった高齢者特有の問題に対して、いろんな不調が起こらないように全身の働きを整える漢方を活用することも有用な対処法になると期待されています。

実際、高齢者が多く入院する療養型の施設で、日常生活動作を改善する目的で漢方薬を服用してもらったところ、肺炎などの感染症の発症率が下がったという報告もあり、体力が向上して、病気への抵抗力が高まったためと考えられています。

しかも、その施設では抗菌薬の使用が減ったため、結果として一人当たりの薬剤費がほぼ半減したということで、漢方を活用することは、高齢者にとって服用する薬剤を減らせるばかりでなく、医療費節減にもつながることが期待できそうです。

西洋医学と漢方医学の長所

漢方治療には、向き不向きがあり、内視鏡治療や手術が有効な癌や、抗菌剤が有効な感染症などでは、西洋医学的な治療が優先されます。また、早期の胃がんなど、検査を受けなければ見つけられない病気もあり、漢方治療が希望であっても、まずは検査を受けて、西洋医学的な治療を優先すべき病気があることを確かめておくべきでしょう。

日本で漢方治療を行っているのは、西洋医学によって医師免許を取得した医師であり、西洋医学的な診療のなかで、漢方薬を処方する医師も増えてきており、西洋医学と漢方医学のそれぞれの特徴を生かし、必要に応じて有効な方法を選んで治療に取り入れていくのが、現代の治療といえるのではないでしょうか。

検査で異常がなくてもつらい時には漢方

患者さんが医療機関を受診する動機として、まず「痛みを無くしたい、少しでもつらい症状を取り除きたい」という気持ちがあると思いますが、検査を受けても異常が見つからず原因がはっきりしないこともあると思います。

例えば「冷えてつらい」とか「疲れやすい」といった症状に悩んでいる場合、いろいろ検査を受けても異常が見当たらず、原因となる重大な病気も無ければ、安心ではありますが、つらい症状は残ったまま、それを解決する方法がなかなか見い出せず、生活のリズムを乱しているケースも少なくありません。

漢方では、患者さんの訴える冷えや疲れやすいと言った症状の改善を目的に治療を行いますので、西洋医学で有効な治療法が確立されていない場合にも、漢方によって症状の改善が期待できるものがあります。

現代人のストレス病、半健康状態に漢方薬

ストレス社会といわれる現代では、心身両面が絡んだ不調に悩まされている人が増えています。もともと「心身一如」と考える漢方では、診察で体の症状と共に心の状態も自然に把握し、心身両面の不調を合わせて改善する治療を行います。

例えば、ストレス病と言われ、下痢や便秘を繰り返す「過敏性腸症候群」なども、下痢だから下痢止め、便意だから下剤といった対応だけでは、うまく解消されないケースも多いので、漢方では、消化管の運動機能を調整するとともに、不安・不眠などの改善効果のある「桂枝加芍薬湯」が処方されています。

また、漢方では病気の前段階の状態を「未病」と呼んで治療の対象とし、体の働きのバランスが崩れているなら、それを整える漢方薬を使うことで、体質を改善し、本核的な病気にならないように予防しています。

現代人には、病気というほどではなくても健康とは言えない「半健康状態」の生活習慣病の予備軍、肩こりや便秘といった「未病」が増えています。

漢方治療を受ける動機には「心身の不調を改善したい」「病気が進行するのを防ぎたい」を挙げる人が多いようですが、現代人のストレス症候群、半健康状態を治すことが漢方への大きな期待となっております。

現代医療における漢方の役割

現代の西洋医学の薬は人工的に合成された化学物質が殆どであるのに対し、漢方薬は今も、植物、動物、鉱物など天然素材の「生薬」を組み合わせて煮出しした煎じ汁から作られるエキス剤です。

現代医学の進歩により、昔なら治らなかった多くの病気が治るようになり寿命も延びましたが、西洋医学も万能ではなく漢方治療を希望する人が増えていることも事実です。

もちろん漢方治療もまた万能ではなく、「患者さんが満足する」ことを治療の目標に置いている漢方治療は、患者さんが不快に思う症状、不調があるならそれを軽減することで、ある程度患者さんのメリットといえるのではいでしょうか。

西洋医学と漢方医学の違い

西洋医学では、心と体を分けて、体を臓器や器官の集合体ととらえ、病気が起きた部位によって、心の病気は精神科、胃の病気は消化器科、心臓の病気は循環器科など、専門分化した診療科で対応し、どの臓器や器官に異常が起きているかを検査で探り、原因を究明し、その病気の原因に対して、病巣のある部位に標的を絞って治療を行っています。

いっぽう、漢方医学では「心身一如」という言葉があるように、心と体は一つのものとして考え、体を部分に分けて考えたりはせず、心も含めた全体の状態や体質をとらえて、診断にあたる「証」を導き出しています。

病気は心身の働きのバランスが崩れたために起こるという考えから、治療はそのバランスを調整することが基本となり、それによって、もともと私たちの体に備わっている自然治癒力を高めることで、病気からの回復を図ろうとするバランス医学になります。

治療に使う漢方薬も、生薬の組み合わせによるさまざまな成分が体内でそれぞれに作用して、その複合的な効果で全身状態を改善します。

漢方薬の落とし穴

もっと効く”漢方薬の選び方 

漢方は長い歴史の中で蓄積されてきた「経験知」によって西洋医学とは異なった取り組みで治療を行っています。この漢方治療にも近年は科学的な検証が取り入れられ、この「科学的根拠」という新たな視点から改めて見直され、現代の治療の中で新しい役割を期待される薬も出てきました。これからの医療は、西洋医学と漢方医学の双方のメリットを生かして、必要に応じて適した治療法を選択していくのが、患者さんにとって最善の治療という時代が到来しているといえるのではないでしょうか。

当ブログは、2012年「NHK きょうの健康 漢方薬辞典」を最新の情報に改定した 改訂版富山大学大学院 和漢診療学講座 嶋田 豊 教授 の漢方薬事典を参考にしながら、元漢方薬メーカーMRの経験をもとに作成しております。

漢方の特性を理解するための基礎知識ととともに古くからの経験知と現代のエビデンスに基づいた漢方治療を紹介し、漢方はなぜ効くのか、漢方はなぜ何種類も薬を飲まなくていいのか、漢方薬と西洋薬を一緒に飲む必要があるのか、漢方薬だけでは治療ができないのか、漢方をより身近な治療の選択業として、上手に活用するために、漢方薬の落とし穴を理解して、日々の健康に役立てる参考にしていただければ幸いです。

    引用 富山大学大学院 和漢診療学講座教授 嶋田 豊 著作
               漢方薬事典(改訂版)